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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)748号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人林利男の上告趣意は、末尾に添えた書面記載のとおりである。

上告趣意第一点について。

(1)犯罪事実の一部についての証拠が、被告人の自白だけであっても、その自白が架空なものでないことを確めうる他の証拠があるかぎり、これと自白とによって犯罪事実の全部を認定しても差支ないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)第一五三号二三年六月九日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一四二六号同二四年一〇月五日大法廷判決)。されば、被告人が原判示のように大島金一から金二千円を受け取ったという外形事実その他が原判決挙示の証人大島金一、同小南房夫の各尋問調書によって肯認される本件においては、右金員授受の趣旨についての証拠が、所論供述調書中の被告人の自白のみであったとしても違法ではない。

(2)憲法三八条三項の定める、自白を唯一の証拠とすることの禁止は、もともと犯罪事実の認定に関するものであることは、当裁判所大法廷の判例の趣旨に徴して、おのずから明らかである(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判決)。しかるに、被告人が大島金一から収受した所論金二千円を費消したという事実は、もとより被告人の収賄罪を構成する事実ではなく、単に右金員を没収することが不能となった原因として追徴の理由となっているに過ぎない。それゆえ、原審が、右費消の事実を、所論供述調書中の自供のみを資料として認めたとしても、すこしも違法ではない。

されば、論旨(1)(2)はいずれも理由がない。

同第二点について。

所論は、まったく量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

また、本件について、同法四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって、刑訴四〇八条、一八一条に従い、主文のとおり判決する。

以上は、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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